勉強の「時給」はいくらか
― 学歴と生涯賃金の関係を令和7年データで見る
インターネット上では、「勉強に1,000時間を費やすと、生涯年収が◯◯円上がる。だから勉強の時給は◯万円だ」というような主張を時折見かけます。生涯にわたって得られる金額の差を、そのために費やした時間で割って「時給」に変換するという考え方自体は、投資対効果を直感的に把握するための一つの手法として、決して的外れではありません。
本記事では、この「勉強の時給換算」という考え方を、厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」と、当サイトが以前に試算した生涯所得のデータを使って、実際に検証してみます。あわせて、この種の計算にどのような前提が置かれているのか、どこまでを「事実」として受け取ってよいのかも、あわせて整理します。
第1章:学歴と年収の関係は、どこまで「事実」なのか
学歴と年収の関係については、これまでも度々話題になってきました。「良い大学に行けば、将来の年収が上がる」という考え方は広く知られていますが、その根拠として示される数字の多くは、転職サイトの登録者データや、特定の調査会社による民間の推計値です。
一方で、厚生労働省が毎年公表している「賃金構造基本統計調査」は、全国約5万事業所を対象にした公的統計であり、学歴別の月額給与という「事実」をそのまま示しています。まずはこのデータから、学歴による年収差がどの程度あるのかを確認していきます。
第2章:令和7年データで見る、学歴別の月額給与
厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」第3表(学歴・年齢階級・性別)の年齢計データから、学歴別の月額所定内給与(千円)を見てみます。
| 学歴 | 男女計 | 男 | 女 |
|---|---|---|---|
| 高校 | 297.2 | 321.7 | 245.0 |
| 専門学校 | 313.7 | 338.3 | 287.5 |
| 高専・短大 | 321.2 | 375.3 | 294.4 |
| 大学 | 396.3 | 429.6 | 327.4 |
| 大学院 | 517.4 | 534.8 | 438.2 |
出典:厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」結果の概況 第3表(2026年3月24日公表)
同じ「男」の区分で高校卒と大学卒を比べると、月額の差は429.6−321.7=107.9千円です。年収に換算する場合、正社員の賞与を考慮した係数(月額×14.5)を掛けると、年間で約156万円の差になります。これが1年あたりの差です。次の章では、これを職業人生全体で積み上げた場合にどうなるかを見ていきます。
第3章:生涯所得で見ると、差はさらに大きくなる
年収の差は、1年ではそれほど大きく見えなくても、職業人生全体(22歳から64歳までの43年間)で積み上げると、印象が変わります。
当サイトでは以前、令和7年の賃金構造基本統計調査と「就労条件総合調査 令和5年」(退職金データ)を組み合わせて、学歴×性別の4つの区分について、生涯所得(給与・賞与・再雇用・退職金の合計)を試算しました。
| 属性 | 生涯所得 |
|---|---|
| 大卒 男 | 約2.7億円 |
| 高卒 男 | 約2.1億円 |
| 大卒 女 | 約2.1億円 |
| 高卒 女 | 約1.6億円 |
出典:生涯所得偏差値で見る、大卒男60/高卒女40(厚生労働省 令和7年 賃金構造基本統計調査+就労条件総合調査 令和5年をもとにした当サイトの試算)
ここで一つ注意しておきたい点があります。この表を見ると「大卒男」と「高卒女」の差(約1.1億円)が一番大きく見えますが、これは学歴の差と性別の差が両方混ざった数字です。学歴だけの効果を見たい場合は、同じ性別の中で学歴を比べる必要があります。
- 大卒男 vs 高卒男(男性同士):2.7億円 − 2.1億円 = 約6,000万円
- 大卒女 vs 高卒女(女性同士):2.1億円 − 1.6億円 = 約5,000万円
こちらの方が、学歴という一つの属性による差により近い数字と言えます。
第4章:勉強の「時給」を試算してみる
ここからが本題です。「学歴による生涯所得の差」を、そのために費やした時間で割ると、時給換算した数字が出せます。
ただし、ここで一つ、明確にしておく必要があります。「大学に進学するために何時間の勉強が必要か」という数字は、公的統計には存在しません。個人の学力や志望校によって大きく異なるため、一律に定めることはできない性質のものです。
そこで本記事では、あくまで一つの仮定として、大学の標準修業年限である4年間、文部科学省の大学設置基準が目安として示す年間の学修時間(1年間でおよそ1,200時間)を4年間続けたと仮定し、合計4,800時間という数字を使って試算します。この4,800時間という数字自体は、実際に大学に進学するために必要な勉強時間を意味するものではなく、あくまで「学業に費やす時間の目安」として置いた仮定の数字である点に、あらためてご留意ください。
この仮定のもとで計算すると、次のようになります。
- 大卒男 vs 高卒男:6,000万円 ÷ 4,800時間 = 12,500円/時間
- 大卒女 vs 高卒女:5,000万円 ÷ 4,800時間 = 約10,400円/時間
一般的なアルバイトの時給と比べると、かなり高い数字に見えます。この計算の考え方自体――生涯にわたる金銭的な差を、投じた時間で割って時間単価に変換する――は、投資対効果を直感的に理解するための手法として、特段間違ってはいません。
第5章:この計算に、どこまで意味があるのか
ただし、この時給換算には、少なくとも3つの前提が置かれていることを、あわせて理解しておく必要があります。
① 学歴以外の要因が混ざっている
年収を決める要因は、学歴だけではありません。当サイトが令和7年データから算出した「年収に影響を与える6つの属性」の影響度ランキングでは、学歴(1.74倍)が最も大きな要因ですが、業種(1.60倍)や都道府県(1.58倍)も僅差で続いています。学歴による年収差の中には、進学先の選び方や、その後に選ぶ業種・勤務地といった、学歴以外の要因も含まれている可能性があります。
② 相関関係であって、因果関係の証明ではない
「勉強した人ほど年収が高い」という傾向があったとしても、それは「勉強したから年収が上がった」という因果関係を証明するものではありません。勉強に多くの時間を割ける環境にあった人は、他の面でも有利な条件を持っていた可能性がありますし、逆に大学に進学しなくても、別の要因で高い収入を得ている人もいます。
③ 将来のお金を「現在の価値」に割り引いて考える
生涯所得は22歳から64歳まで、40年以上にわたって受け取るお金の合計です。今の1万円と、40年後に受け取る1万円は、経済的な価値としては同じではありません。将来のお金を「今のいくらに相当するか」に置き換える考え方を、割引現在価値と呼びます。ここまでの試算(大卒男vs高卒男で約6,000万円、大卒女vs高卒女で約5,000万円の差)は、この割引を考慮せず、単純に金額を合計したものでした。
割引率の設定に絶対的な正解はありませんが、日本の公共事業評価では、慣例的に年4%程度の社会的割引率が参照されてきました。本記事でも一つの目安としてこの年4%を用い、令和7年データの年齢別給与カーブに学歴係数(大学卒1.317/高校卒0.987、生涯所得偏差値の試算で用いた係数)を適用して、22歳から64歳までの各年に発生する年収差を割り引いて合計し直しました。
| 比較 | 割引前(単純合計) | 割引後(年4%で試算) |
|---|---|---|
| 大卒男 vs 高卒男 | 約6,000万円 | 約2,500万円 |
| 大卒女 vs 高卒女 | 約5,000万円 | 約2,100万円 |
これを4,800時間で割ると、時給換算の数字も次のように変わります。
- 大卒男 vs 高卒男:約2,500万円 ÷ 4,800時間 = 約5,200円/時間
- 大卒女 vs 高卒女:約2,100万円 ÷ 4,800時間 = 約4,400円/時間
割引前の12,500円・約10,400円と比べると、半分以下の水準まで下がります。なお、割引率を年2%とした場合は、大卒男vs高卒男で約7,900円/時間、大卒女vs高卒女で約6,500円/時間となり、割引率の設定次第で結果が大きく変わることも分かります。この試算はあくまで一つの近似であり、実際の年収差が発生するタイミングを精密に再現したものではない点に、あらためてご留意ください。
これらの前提を踏まえると、「勉強の時給は1万円を超える」という数字は、割引現在価値を考慮しない単純計算による一つの参考値であり、割引率を加味するとさらに小さくなる可能性がある、という点も含めて、学歴という一つの切り口から見た目安として受け取るのが妥当だと考えられます。
第6章:自分の年収は、学歴を含めた6つの属性でどう見えるか
ここまで見てきたように、学歴は年収に影響を与える大きな要因の一つですが、唯一の要因ではありません。実際の年収は、学歴・年齢・性別・業種・企業規模・都道府県という6つの属性が組み合わさって決まります。
「年収偏差値ラボ」では、この6つの属性を入力することで、あなたが同じ属性の人たちの中でどの位置にいるかを、約1分で診断できます。
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学歴別の年収差についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
- 【令和7年最新】学歴別 年収の現実 — 学歴別の月額データを、年代・地域まで含めて詳しく解説
- 生涯所得偏差値で見る、大卒男60/高卒女40 — 職業人生全体で見た所得の格差を偏差値で可視化
第7章:一つの物差しとして、冷静に受け取る
「勉強の時給は高い」という主張は、方向性としては妥当です。令和7年のデータを見る限り、学歴による年収差・生涯所得差は確かに存在し、それを時間で割ると、決して小さくない数字が出てきます。
ただし、その数字は、学歴以外の要因を含んだ、一つの仮定に基づく参考値であることも、あわせて理解しておく必要があります。「勉強すれば必ずこの通りになる」というものではなく、「学歴という切り口で見ると、これくらいの差がある」という一つの物差しとして、冷静に受け取るのが、データとの付き合い方として適切だと考えられます。
よくある質問
年収偏差値ラボ(DataLabo)編集部は、厚生労働省などの公的統計のみを一次出典として、年収・資産・退職金の偏差値を解説しています。本記事は令和7年 賃金構造基本統計調査に基づき、推測値を用いず、仮定を置く場合はその旨を明記する方針で執筆しています。
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