「同じ仕事をしているのに、大企業に入った同級生とは生涯でいくら差がつくのだろう」——転職や就職を考えるとき、誰もが一度は気になる問いではないでしょうか。年収を 1 年単位で比べると差は数十万円に見えても、それが 40 年積み上がる と、桁が変わります。
厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」(2026 年 3 月 24 日公表)と「就労条件総合調査 令和5年」から試算すると、生涯年収(給与・賞与・退職金の総額)は企業規模だけで大企業 約 2.4 億・小企業 約 1.7 億。同じ学歴・性別でも企業規模だけで約 1.4 倍、そこに学歴・性別が重なると 最大で約 2 倍・金額にして約 1.8 億円 もの差が生まれます。
本記事では、生涯年収偏差値という指標で、令和7年データから「企業規模」がどれだけ生涯年収を動かすのかを可視化します。学歴や性別と並んで、いやそれ以上に効いてくる「規模の壁」を、公的統計の数字で確かめていきましょう。
生涯年収(生涯賃金)とは、ある人が職業人生で受け取る給与・賞与・退職金の合計額です。一般に 22 歳の就職から 64 歳の再雇用満了までの 43 年間で積算します。そして 生涯年収偏差値とは、その総額が日本の労働者全体の中でどの位置にあるかを偏差値(平均 50、標準偏差 10)で表した指標です。
年収偏差値が「1 年間のスナップショットでの位置」だとすれば、生涯年収偏差値は「人生全体の積分値での位置」です。今の年収偏差値が同じ 2 人でも、勤め先の企業規模が違えば、昇給カーブの傾きと退職金の厚みが変わり、生涯年収偏差値は大きく開きます。企業規模は「1 年の差」を「40 年の差」へと増幅させる係数なのです。
計算式は次の通りです。
賃金(フロー)と退職金(ストック)の両方に企業規模の係数がかかる点が重要です。だからこそ、企業規模の差は生涯年収で二重に効いてきます。
令和7年 賃金構造基本統計調査の正社員(男女計)月額所定内給与は、企業規模で次の通りはっきり分かれます。
| 企業規模 | 正社員 月額(男女計) | 規模計との比 |
|---|---|---|
| 大企業(1,000人以上) | 414.1 千円 | 1.15 |
| 中企業(100〜999人) | 344.4 千円 | 0.96 |
| 小企業(10〜99人) | 315.0 千円 | 0.88 |
この月額差に賞与込み係数(M2A)と年代別カーブを掛け、43 年間積算したうえで、就労条件総合調査の企業規模別退職金を加えると、生涯年収は次のようになります(正社員・男女計・60 歳定年 + 5 年再雇用の標準モデル)。
| 企業規模 | 給与・賞与(43 年) | 退職金 | 生涯年収 合計 | 生涯年収偏差値 |
|---|---|---|---|---|
| 大企業(1,000人以上) | 約 2.1 億 | 約 2,500 万 | 約 2.4 億 | 約 56 |
| 中企業(100〜999人) | 約 1.8 億 | 約 1,500 万 | 約 2.0 億 | 50 |
| 小企業(10〜99人) | 約 1.6 億 | 約 1,000 万 | 約 1.7 億 | 約 45 |
学歴・性別をそろえても、大企業(1,000人以上)と小企業(10〜99人)では生涯年収が約 1.4 倍。生涯年収偏差値にして約 11 ポイント(56 ⇔ 45)の差が、勤め先の規模という一点から生まれます。
生涯年収の差を生む第一の要因は、実は 退職金です。就労条件総合調査 令和5年によれば、大卒・定年・勤続 35 年の退職金は、1,000人以上で約 3,508 万円、30人未満で約 1,232 万円。その差は 2.85 倍に達します。これは学歴差(大卒/高卒現業 1.60 倍)や退職事由差(定年/自己都合 1.67 倍)を上回る、退職金の最大の変動要因です。
退職金は「長年の積み重ね」がまとめて支払われるストックの所得です。月々の給与差は気づきにくくても、定年時にまとめて 2,000 万円以上の差となって現れます。しかも中小・零細では 退職金制度がない企業が約 4 社に 1 社(30人未満では約 4 割)。この場合、生涯年収から退職金分がまるごと消えるため、規模の差はさらに開きます。
第二の要因は、年代別の賃金カーブの傾きです。大企業は役職ポストが多く、定期昇給と昇格で 50 代まで賃金が伸び続けます。一方、中小・零細では 30〜40 代でカーブが寝てしまい、ピークの高さそのものが低くなります。同じスタート地点でも、40 年かけてカーブの面積(=生涯の給与総額)に大きな差が生まれるのです。
ここまでは「学歴・性別をそろえた」企業規模だけの差(約 1.4 倍)を見てきました。しかし現実には、これらの要因は重なります。最も生涯年収が高い「大企業・大卒・男性」と、最も低い「小(零細)企業・高卒・女性」を並べると、差はさらに開きます。
逆に言えば、企業規模は「変えられる」要因でもあります。学歴や性別は後から動かしにくい一方、転職による企業規模のシフトは、生涯年収偏差値を最も大きく動かせるレバーの一つです。20〜30 代での規模アップは、残りの就労期間が長いぶん、生涯年収への効きが特に大きくなります。
絶対額(億円)だけでは、自分が「どの位置」にいるかは分かりにくいものです。そこで 生涯年収偏差値(平均 50、標準偏差 10) で表すと、相対的な位置が直感的に把握できます。当サイトの試算では、正社員の生涯年収中央値を 約 2.0 億円とし、対数正規分布(σ_log=0.30)で算出すると、次のような対応になります。
| 生涯年収偏差値 | 生涯年収 目安 | 上位 % | 該当する属性の例 |
|---|---|---|---|
| 40 | 約 1.5 億 | 下位 15.87% | 小・零細 × 高卒女 平均的 |
| 45 | 約 1.7 億 | 下位 30.85% | 小企業(10〜99人)平均的 |
| 50 | 約 2.0 億 | 中位 | 中企業(100〜999人)平均的 |
| 56 | 約 2.4 億 | 上位 27.4% | 大企業(1,000人以上)平均的 |
| 60 | 約 2.7 億 | 上位 15.87% | 大企業 × 大卒 標準 |
| 67 | 約 3.3 億 | 上位 4.46% | 大企業 × 大卒男 × 管理職 |
| 70 | 約 3.6 億 | 上位 2.28% | 大企業 部長・役員候補 |
生涯年収偏差値は「年収偏差値」とは異なる指標です。今の年収偏差値が同じでも、企業規模による昇給カーブと退職金の差で、生涯年収偏差値は大きく動きます。年収偏差値だけでなく「定年到達率」「退職金偏差値」「再雇用」の総合点が生涯年収偏差値を決めます。
生涯年収偏差値は人生の総合点ですが、その出発点は 今の年収偏差値と 退職金偏差値です。当サイトでは、令和7年 賃金構造基本統計調査と就労条件総合調査 令和5年のデータで、企業規模を含む属性ごとの偏差値を 1 分で診断できます。
令和7年データが示すのは、生涯年収が「能力」だけで決まらないという冷静な事実です。企業規模・学歴・性別 — これらの構造要因が組み合わさって、生涯年収偏差値で約 25 ポイント・最大約 1.8 億円の差が生まれます。とりわけ 企業規模は、賃金カーブと退職金の両方に効く二重のレバーでした。
とはいえ、この構造を知っているか知らないかで、20 代の就職、30 代の転職判断、40 代のキャリア戦略は大きく変わります。学歴や性別と違い、企業規模は転職で動かせる数少ない要因です。生涯年収偏差値を「知る」ことは、それを「使う」ことの第一歩です。今日の年収偏差値を知ることが、40 年の積分値を最大化する出発点になります。
DataLabo(データラボ)は、日本の公的統計を最速で反映することを編集方針とするデータジャーナリズム媒体です。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」「就労条件総合調査」、家計の金融行動に関する世論調査(J-FLEC)など、行政・準行政の一次データを直接読み解き、診断ツール・解説記事として公開しています。
本記事は厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」(2026 年 3 月 24 日公表)の企業規模別 正社員月額所定内給与と「就労条件総合調査 令和5年」の企業規模別 退職給付額・制度なし企業比率を一次資料に、賞与込み係数(M2A)と年代別カーブを組み合わせて 43 年間積算した独自試算結果です。※ 個人差・業種差・職種差は別途要因として存在します。退職金額は大卒・定年・勤続 35 年ベースを男女計モデルに調整した目安です。
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