TENURE × WAGE — 勤続年数と賃金の循環構造

平均年収と勤続年数の相関 — 勤続9.6年 vs 17.6年、賃金格差1.6倍の構造

2026.05.25 データラボ(DataLabo) 令和7年 賃金構造基本統計調査 第5-1表

1. なぜ「年収が低い業種」は「勤続年数も短い」のか

令和7年 賃金構造基本統計調査には、産業別の月額賃金だけでなく、平均年齢平均勤続年数も記載されています。

この3つの数字を並べると、ある構造が浮かび上がります。賃金が低い業種ほど、勤続年数が短い。そして勤続年数が短い業種は、年功カーブが育たないため、さらに賃金が上がりにくくなります。

「年収が上がらないから辞める。辞めるから年功が積み上がらない。年功が積み上がらないから年収が上がらない」。

この循環構造を、公的統計データで可視化してみます。

2. 令和7年データ — 産業別の賃金・年齢・勤続年数

産業別 月額賃金 × 平均勤続年数(男女計)
Monthly wage and average tenure by industry — R7, Table 5-1
産業
月額
千円
勤続
電気・ガス
444.0
17.6年
学術研究
440.3
12.1年
情報通信
406.0
12.3年
鉱業
388.3
13.9年
教育・学習
379.4
11.7年
建設
366.3
13.7年
不動産
360.1
10.7年
製造
330.0
15.3年
生活関連
295.2
10.6年
宿泊・飲食
277.2
9.6年
賃金最上位の電気・ガス業(444.0千円/月、勤続17.6年)と最下位の宿泊・飲食業(277.2千円/月、勤続9.6年)では、勤続年数に8.0年の差があり、月額は1.60倍の開きがあります。
出典:厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」第5-1表(2026年3月24日公表)。男女計・一般労働者。
勤続年数 × 月額賃金 の相関(産業別)
Scatter: average tenure vs monthly wage by industry — R7, Table 5-1
産業別 勤続年数と月額賃金の散布図 250 300 350 400 450 月額賃金(千円)↑ 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 平均勤続年数(年)→ 宿泊・飲食 生活関連 不動産 教育 学術研究 情報通信 建設 鉱業 製造 電気・ガス
右上(長勤続 × 高賃金)に電気・ガス業、左下(短勤続 × 低賃金)に宿泊・飲食業。トレンドラインは右肩上がりで、勤続年数と賃金の正の相関を示しています。情報通信・学術研究は勤続が短めでも高賃金 — スキルベース型の例外です。
出典:厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」第5-1表(2026年3月24日公表)。男女計・一般労働者。トレンドラインは視覚参考。

散布図の読み方

DATA
勤続17.6年 → 444千円 / 勤続9.6年 → 277千円

厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」第5-1表によれば、電気・ガス業の平均勤続年数は17.6年で月額444.0千円、宿泊・飲食サービス業は9.6年で277.2千円。勤続年数が1.8倍長い業種は、賃金も1.6倍高い構造です。

勤続年数 × 平均年齢 の相関(産業別)
Scatter: average tenure vs average age by industry — R7, Table 5-1
産業別 勤続年数と平均年齢の散布図 39 40 42 44 46 48 50 平均年齢(歳)↑ 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 平均勤続年数(年)→ 43歳 宿泊・飲食 生活関連 不動産 教育 学術研究 情報通信 建設 鉱業 製造 電気・ガス
賃金×勤続の散布図とは対照的に、平均年齢と勤続年数にはほとんど相関がありません。電気・ガス(勤続17.6年)も宿泊・飲食(勤続9.6年)も平均年齢は同じ43.1歳。勤続年数に8年の差がありながら年齢が同じということは、短勤続の業種では「転職を繰り返して勤続がリセットされている」構造が示唆されます。

情報通信業(40.2歳)は平均年齢が最も若く、勤続12.3年。業界自体の歴史が浅いことと、若年層の流入が多いことが背景にあります。
出典:厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」第5-1表(2026年3月24日公表)。男女計・一般労働者。
月額賃金 × 平均年齢 の相関(産業別)
Scatter: monthly wage vs average age by industry — R7, Table 5-1
産業別 月額賃金と平均年齢の散布図 250 300 350 400 450 月額賃金(千円)↑ 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 平均年齢(歳)→ 情報通信 生活関連 学術研究 電気・ガス 宿泊・飲食 不動産 製造 教育 建設 鉱業 167千円差
平均年齢と月額賃金にはほぼ相関がありません。電気・ガス業(43.1歳 / 444千円)と宿泊・飲食業(43.1歳 / 277千円)は平均年齢がまったく同じなのに、月額に167千円(年約242万円)の差があります。「年齢が上がれば年収も上がる」は業種を跨ぐと成立しません。同じ年齢でも、いる業種によって賃金水準が根本的に異なります。
出典:厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」第5-1表(2026年3月24日公表)。男女計・一般労働者。

3つの散布図が示す構造

散布図X軸Y軸結果
1 勤続年数 月額賃金 強い正の相関 — 長く勤める業種ほど高賃金
2 勤続年数 平均年齢 相関なし — 勤続が違っても年齢は同じ
3 平均年齢 月額賃金 相関なし — 同じ43歳でも167千円差
CONCLUSION
賃金を決めるのは年齢ではなく勤続年数

3つの散布図を重ねると、「年齢が上がれば年収が上がる」は業種内でしか成立しないことが分かります。業種を跨ぐと、年齢ではなく勤続年数(=その業種に留まった時間)が賃金を決定します。転職で業種が変われば、年功のカウントはリセットされます。

3. 「年収が上がらないから辞める」循環構造

なぜ宿泊・飲食業の勤続年数は短いのでしょうか。

因果関係は統計だけでは確定できませんが、データが示唆する循環構造は以下の通りです。

賃金が低い
277千円/月
昇給カーブが
緩やか
在籍する
動機が弱い
離職・転職
勤続9.6年
年功が
リセット
賃金が
上がらない

対照的に、電気・ガス業のような高賃金業種では逆の循環が働きます。

この構造は、個人の努力だけでは突破しにくい「業種の壁」と言えます。

4. 平均年齢が示す「もう一つのシグナル」

産業別の平均年齢を見ると、さらに興味深い構造が見えてきます。

産業月額(千円)平均年齢勤続年数
電気・ガス444.043.1歳17.6年
製造330.044.1歳15.3年
建設366.345.5歳13.7年
情報通信406.040.2歳12.3年
学術研究440.342.9歳12.1年
宿泊・飲食277.243.1歳9.6年
生活関連295.242.3歳10.6年
不動産360.143.9歳10.7年

注目すべきは、平均年齢はどの業種も40〜45歳でほぼ同じなのに、勤続年数には9.6〜17.6年という大きな差があるという点です。

これが意味することは明確です。宿泊・飲食業で平均年齢43.1歳・勤続9.6年ということは、33歳頃に入職した計算になります。つまり、20代のうちに別の業種から転職してきた人が多い、あるいは転職を繰り返して勤続がリセットされ続けている構造です。

一方、電気・ガス業は平均年齢43.1歳・勤続17.6年。25歳で入社してそのまま勤め続けている構造が推測されます。

INSIGHT
平均年齢は同じ43歳。勤続は8年差。

電気・ガス業と宿泊・飲食業は平均年齢がどちらも43.1歳。しかし勤続年数は17.6年 vs 9.6年。同じ年齢でも「1社で積み上げた人」と「転職を経た人」では、年功カーブの恩恵が根本的に異なります。

5. 情報通信業の「例外」— 勤続12.3年でも高賃金の理由

循環構造の法則には例外もあります。情報通信業は勤続12.3年と短めですが、月額406.0千円と高水準です。

これは、情報通信業が年功序列ではなくスキルベースの賃金構造を持つためと考えられます。勤続年数に依存せず、技術力や役割に応じた賃金が支払われる構造では、「長く勤めること」自体の価値が相対的に小さくなります。

同様に、学術研究・専門技術サービス業(勤続12.1年、月額440.3千円)も、専門性が賃金を支えている業種です。

つまり、循環構造は「年功序列型の業種」で強く作用します。年功カーブが急な業種では勤続の長さが賃金に直結するため、長く勤める動機が生まれ、さらにカーブが育つ。逆に、年功カーブが緩い業種では、勤続の長さが報われにくく、離職が増えます。

6. あなたの業種の勤続年数と偏差値を確認する

自分が今いる業種の賃金水準と、業種を変えた場合の偏差値変動を確認できます。

業種×勤続年数の効果を偏差値で確認
年収偏差値を診断 → 雇用形態で比較 →
業種を変えて再計算すれば、異業種転職で偏差値がどう動くかをシミュレーション可能。

関連記事:

7. 循環を断つための2つの視点

データは循環構造の存在を示しています。しかし、循環の中にいることを知ること自体が、循環を断つ第一歩です。

視点1:業種の移動

年功カーブが急な業種への転職は、循環構造の外に出る選択肢の一つです。ただし、転職すれば勤続はリセットされます。「入口の偏差値は下がるが、10年後のカーブが急な業種に移る」という判断ができるかどうかが分かれ目です。

視点2:スキルベースの業種を選ぶ

情報通信業や学術研究業のように、勤続年数よりもスキルが賃金を決める業種では、循環構造自体が弱まります。勤続が短くても、専門性があれば高賃金を維持できる構造です。

どちらの視点も、まず「自分の業種で勤続年数がどれだけ賃金に効いているか」を知ることから始まります。令和7年の公的統計データは、その出発点になります。


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