令和7年 賃金構造基本統計調査には、産業別の月額賃金だけでなく、平均年齢と平均勤続年数も記載されています。
この3つの数字を並べると、ある構造が浮かび上がります。賃金が低い業種ほど、勤続年数が短い。そして勤続年数が短い業種は、年功カーブが育たないため、さらに賃金が上がりにくくなります。
「年収が上がらないから辞める。辞めるから年功が積み上がらない。年功が積み上がらないから年収が上がらない」。
この循環構造を、公的統計データで可視化してみます。
厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」第5-1表によれば、電気・ガス業の平均勤続年数は17.6年で月額444.0千円、宿泊・飲食サービス業は9.6年で277.2千円。勤続年数が1.8倍長い業種は、賃金も1.6倍高い構造です。
| 散布図 | X軸 | Y軸 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1 | 勤続年数 | 月額賃金 | 強い正の相関 — 長く勤める業種ほど高賃金 |
| 2 | 勤続年数 | 平均年齢 | 相関なし — 勤続が違っても年齢は同じ |
| 3 | 平均年齢 | 月額賃金 | 相関なし — 同じ43歳でも167千円差 |
3つの散布図を重ねると、「年齢が上がれば年収が上がる」は業種内でしか成立しないことが分かります。業種を跨ぐと、年齢ではなく勤続年数(=その業種に留まった時間)が賃金を決定します。転職で業種が変われば、年功のカウントはリセットされます。
なぜ宿泊・飲食業の勤続年数は短いのでしょうか。
因果関係は統計だけでは確定できませんが、データが示唆する循環構造は以下の通りです。
対照的に、電気・ガス業のような高賃金業種では逆の循環が働きます。
この構造は、個人の努力だけでは突破しにくい「業種の壁」と言えます。
産業別の平均年齢を見ると、さらに興味深い構造が見えてきます。
| 産業 | 月額(千円) | 平均年齢 | 勤続年数 |
|---|---|---|---|
| 電気・ガス | 444.0 | 43.1歳 | 17.6年 |
| 製造 | 330.0 | 44.1歳 | 15.3年 |
| 建設 | 366.3 | 45.5歳 | 13.7年 |
| 情報通信 | 406.0 | 40.2歳 | 12.3年 |
| 学術研究 | 440.3 | 42.9歳 | 12.1年 |
| 宿泊・飲食 | 277.2 | 43.1歳 | 9.6年 |
| 生活関連 | 295.2 | 42.3歳 | 10.6年 |
| 不動産 | 360.1 | 43.9歳 | 10.7年 |
注目すべきは、平均年齢はどの業種も40〜45歳でほぼ同じなのに、勤続年数には9.6〜17.6年という大きな差があるという点です。
これが意味することは明確です。宿泊・飲食業で平均年齢43.1歳・勤続9.6年ということは、33歳頃に入職した計算になります。つまり、20代のうちに別の業種から転職してきた人が多い、あるいは転職を繰り返して勤続がリセットされ続けている構造です。
一方、電気・ガス業は平均年齢43.1歳・勤続17.6年。25歳で入社してそのまま勤め続けている構造が推測されます。
電気・ガス業と宿泊・飲食業は平均年齢がどちらも43.1歳。しかし勤続年数は17.6年 vs 9.6年。同じ年齢でも「1社で積み上げた人」と「転職を経た人」では、年功カーブの恩恵が根本的に異なります。
循環構造の法則には例外もあります。情報通信業は勤続12.3年と短めですが、月額406.0千円と高水準です。
これは、情報通信業が年功序列ではなくスキルベースの賃金構造を持つためと考えられます。勤続年数に依存せず、技術力や役割に応じた賃金が支払われる構造では、「長く勤めること」自体の価値が相対的に小さくなります。
同様に、学術研究・専門技術サービス業(勤続12.1年、月額440.3千円)も、専門性が賃金を支えている業種です。
つまり、循環構造は「年功序列型の業種」で強く作用します。年功カーブが急な業種では勤続の長さが賃金に直結するため、長く勤める動機が生まれ、さらにカーブが育つ。逆に、年功カーブが緩い業種では、勤続の長さが報われにくく、離職が増えます。
自分が今いる業種の賃金水準と、業種を変えた場合の偏差値変動を確認できます。
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データは循環構造の存在を示しています。しかし、循環の中にいることを知ること自体が、循環を断つ第一歩です。
視点1:業種の移動
年功カーブが急な業種への転職は、循環構造の外に出る選択肢の一つです。ただし、転職すれば勤続はリセットされます。「入口の偏差値は下がるが、10年後のカーブが急な業種に移る」という判断ができるかどうかが分かれ目です。
視点2:スキルベースの業種を選ぶ
情報通信業や学術研究業のように、勤続年数よりもスキルが賃金を決める業種では、循環構造自体が弱まります。勤続が短くても、専門性があれば高賃金を維持できる構造です。
どちらの視点も、まず「自分の業種で勤続年数がどれだけ賃金に効いているか」を知ることから始まります。令和7年の公的統計データは、その出発点になります。
年収偏差値ラボは、厚生労働省の公的統計データに基づく年収・資産・退職金の偏差値診断ツールを提供しています。すべての計算は令和7年 賃金構造基本統計調査およびJ-FLEC 2025の実データを使用しており、推測値や概算値は含みません。
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