BLOG ARTICLE / データの仕組み

「都道府県 × 雇用形態」のデータが存在しない理由
— 非正規の地域格差を 70% 圧縮する根拠

公開日: 2026-04-30 所要: 約 7 分

第1章:東京の正社員 vs 青森の非正規 — 比べたいのに比べられない

「東京の正社員と、青森の非正規パート、給与差はどれくらい?」と聞かれたとき、確かなデータで答えられるでしょうか。実は、この問いに公的統計で直接答えるのは 不可能です。

厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」には、雇用形態別(正規 / 非正規)の集計表が複数存在します。

つまり、「都道府県別の正社員賃金」も「全国の非正規賃金」も分かりますが、「青森県の非正規賃金」は公的統計から直接取れないのです。

本サイトの「年収偏差値(雇用形態版)」は、この空白を埋めるために 「非正規の地域格差は正社員の 70%」として推定値を使っています。本記事では、その推定の論理と数学的根拠を完全公開します。

第2章:正社員の地域格差は 1.58 倍(東京 vs 青森)

まず、正社員の地域格差は賃構調 R7 の都道府県別データから直接見えます。

都道府県月額所定内給与(千円)全国平均比(補正係数)年収換算(万円)
東京都(最高)418.31.228607
神奈川県368.51.082535
大阪府358.71.053521
全国平均340.61.000494
北海道297.00.872431
青森県(最低)263.90.775383

東京と青森の倍率: 418.3 ÷ 263.9 = 1.58 倍。同じ職種でも、勤務地が変われば賃金は 1.58 倍も差が出る。

※ 補正係数は「全国平均 1.0」を基準にした各都道府県の相対値。例えば東京の +22.8% は、全国平均より 22.8% 高いという意味。

第3章:非正規の地域格差は、本当はもっと小さいはず

では、非正規(パート・アルバイト・契約社員)の地域格差は同じく 1.58 倍でしょうか? 直感的には、もっと緩やかなはずです。

① 最低賃金が「下支え」になる

令和7年度の地域別最低賃金(時給):

地域最低賃金(時給)東京/最低 倍率
東京都(最高)1,163 円基準
神奈川県1,162 円1.001
大阪府1,114 円1.044
沖縄・青森(最低水準)952 円1.222

最低賃金の地域格差は 東京 1,163円 / 沖縄 952円 = 1.22 倍。正社員の 1.58 倍より明らかに緩やかです。

② 全国チェーン店パート時給の地域差は小さい

イオン・ユニクロ・コンビニ・ファストフードなど全国チェーンのパート時給は、都市部と地方で おおむね 1.2〜1.3 倍程度の差。職務内容が同質的なパート層では、地域差が縮小する傾向があります。

③ 労働経済学の知見

非正規雇用は本社機能の地域偏在の影響を受けにくく、全国一律的な労働市場が形成されやすい。逆に正社員は、本社(東京)/ 支店(地方)の構造的な差が反映され、地域差が大きく出ます。

第4章:「70%」の数学的根拠

では具体的に、非正規の地域格差は正社員の何 % と推定すべきでしょうか。本サイトでは 最低賃金の地域格差 ÷ 正社員の地域格差から逆算しています。

非正規地域格差の圧縮率
  = 最低賃金 地域差倍率 ÷ 正社員 地域差倍率
  = 1.22 倍 ÷ 1.58 倍
  = 0.77

計算結果は 0.77(77%)。本サイトはこれを保守的に 70%に切り下げて運用しています。

視点:なぜ保守的に 70% なのか

0.77 をそのまま使わず 70% に下げているのは、非正規層の方が最低賃金以上の賃金獲得が難しいためです。最低賃金は「フロア」ですが、地方の非正規層は最低賃金 + α で働く割合が都市部より高い、という現実を反映しています。

結果として、「最低賃金倍率 1.22 倍」よりやや広い「非正規倍率 約 1.38 倍」を仮定する設計になります(70% 圧縮後の値)。

第5章:「70% 圧縮」を都道府県補正係数に適用すると

本サイトの実装では、各都道府県の 「全国平均 1.0 からの距離(=幅)」を 70% に縮めることで非正規の地域補正を作ります。

非正規の都道府県補正係数
  = 1.0 + (正社員補正係数 − 1.0) × 0.7

具体的な変換例

都道府県正社員 補正係数正社員 年収換算非正規 補正係数
(70% 圧縮)
非正規 年収換算
(参考)
東京都1.228607 万1.160350 万 × 1.160 ≒ 406 万
神奈川県1.082535 万1.057350 × 1.057 ≒ 370 万
全国平均1.000494 万1.000350 万
北海道0.872431 万0.910350 × 0.910 ≒ 319 万
青森県0.775383 万0.843350 × 0.843 ≒ 295 万

※ 非正規の年収換算は「非正規の全国平均年収 350 万円」を仮定した参考値。

地域格差の比較

区分東京青森東京/青森 倍率
正社員1.2280.7751.58 倍
非正規(70% 圧縮)1.1600.8431.38 倍

圧縮の効果が見て取れます。非正規の方が地域による振れ幅が小さく、これが現実の最低賃金フロアを反映した構造になっています。

第6章:あなたの 雇用形態×都道府県 偏差値を診断

本記事で解説したロジックは、本サイトの「06 雇用形態版」にそのまま実装されています。あなたの雇用形態(正社員 or 非正社員)と都道府県を入力すると、本記事の計算がそのまま動作します。

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本記事の地域補正ロジックをそのままアプリ化。正社員モードでは賃構調実数、非正規モードでは 70% 圧縮した推定値で、あなたの位置を 6 ベースで診断します。

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まとめ:データの限界に向き合う

今回のポイント:

  1. 賃構調 R7 には 「都道府県 × 雇用形態」のクロス集計が存在しない(公表データの空白)
  2. 正社員の地域格差は東京/青森 = 1.58 倍(賃構調実数から確認)
  3. 非正規の地域格差は最低賃金フロアの効果で 緩やか(最低賃金倍率は 1.22 倍)
  4. 「70% 圧縮」の根拠:最低賃金倍率 1.22 ÷ 正社員倍率 1.58 ≒ 0.77 を保守的に 70% へ
  5. 結果:非正規の都道府県差は東京 1.160 / 青森 0.843 で約 1.38 倍
  6. 本サイトは「ない値は推定するが、根拠を完全に公開する

「データが存在しないからといって、雑に推定するわけにはいかない。」これが本サイトのスタンスです。最低賃金という公的データを別の角度から使うことで、限定的だが意味のある推定が可能になる — そういう誠実なデータジャーナリズムを目指しています。

政府がいつか「都道府県 × 雇用形態」のクロス集計を公表する日が来れば、本サイトは即座に推定値を実数値に置き換えます。それまでの暫定モデルとして、本記事の透明な推定方法をご活用ください。