コラム / 退職金・東京特集

【2026年度版(令和8年度)】東京都の中小企業、退職金の実態は1,149万円 — 全国「大学卒1,896万円」との差746万円の理由

公開日 2026.08.21 更新日 2026.08.21 監修|DataLabo 編集部 データソース|厚労省 就労条件総合調査R5 + 東京都産業労働局R6版

「大学卒の退職金は平均1,896万円」——ニュースや転職サイトの記事で、一度は見かけたことがあるのではないでしょうか。東京都内の中小企業で働いている方の中には、この数字を見て「うちの会社は、そこまでもらえるのだろうか」と、漠然とした不安を感じたことがあるかもしれません。

結論から言うと、その不安は的外れではありません。1,896万円という数字は、常用労働者30人以上の企業全体(大企業を含む全国計)の平均です。東京都産業労働局が令和6年12月に公表した「中小企業の賃金・退職金事情」を確認すると、都内従業員10〜299人の中小企業に限った大学卒定年退職金は1,149.5万円。差はおよそ746万円にのぼります。

本記事では、厚生労働省「就労条件総合調査 令和5年」と東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情 令和6年版」の一次資料から、東京で中小企業に勤める人にとっての退職金の実態を確認していきます。

「1,896万円」の正体 — 企業規模の内訳はない

厚生労働省「就労条件総合調査 令和5年」(令和5年10月31日公表)の第22表には、こう書かれています。勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者について、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の退職給付額は1,896万円。この調査の対象は「常用労働者30人以上の民営企業」で、規模の下限は30人ですが上限はありません。1,000人以上の大企業も、30〜99人の小規模企業も、同じ集計の中に含まれています。

ここで重要なのは、第22表には企業規模別の内訳が存在しないという点です。同調査の第16表(退職給付制度の有無)を見ると、制度がある企業の割合は1,000人以上で90.1%、300〜999人で88.8%、100〜299人で84.7%、30〜99人で70.1%と、規模が小さいほど明確に下がっていきます。制度の「有無」でこれだけ差があるということは、制度が「ある」企業の中でも、金額に規模差が存在する可能性は高いと考えられます。しかし、その金額の内訳を示す公式統計は、少なくとも概況資料の範囲では公表されていません。

つまり「大学卒1,896万円」という数字は、全国の代表値ではあっても、あなたの勤務先の規模を反映した値ではない可能性があります。特に東京都内で働く方にとっては、都道府県別の企業構成(中小企業の比率が高いか低いか)によって、実感との差はさらに開くかもしれません。

東京都のデータが示す実態 — 大学卒定年退職金1,149.5万円

東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」は、都内従業員10〜299人の中小企業659社を対象にした調査です。この調査の第8表「モデル退職金」(調査産業計)を見ると、定年退職金(会社都合退職の欄)は次の通りです。

学歴 東京都・定年退職金
(10〜299人)
支給率(月数)
大学卒1,149.5 万円24.9 ヶ月
高専・短大卒992.0 万円23.5 ヶ月
高校卒974.1 万円23.5 ヶ月
図 1|大学卒・定年退職金 — 全国計 1,896万円 vs 東京都中小企業 1,149.5万円
RETIREMENT ALLOWANCE — NATIONAL vs TOKYO SME / 万円
全国計
(30人以上)
1,896 万
東京都中小企業
(10〜299人)
1,149.5 万
差は746.5万円・東京都中小企業は全国計の60.6%水準(=約39%少ない)。母集団が「全国・全規模込み」と「東京都・10〜299人限定」で異なる点に注意。
SOURCE:厚労省「就労条件総合調査 令和5年」第22表(大学・大学院卒、定年退職者)/東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情 令和6年版」第8表-①(調査産業計、大学卒、定年・会社都合退職)

高校卒についても、東京都の974.1万円は全国の「高校卒(管理・事務・技術職)1,682万円」より707.9万円低く、より下位の区分である「高校卒(現業職)1,183万円」と比べても208.9万円低い水準です。ただし、東京都の学歴区分は「高校卒」の一区分のみで、全国のように職種(管理・事務・技術職/現業職)で分かれていないため、両者の学歴区分の粒度は完全には一致しません。あくまで参考値として捉えてください。

FACT — 母集団の違い
東京都中小企業の退職金は全国計の約6割水準

「東京は物価も給与も高い」というイメージがある一方、退職金に関しては東京都内の中小企業(10〜299人)は全国計(大企業込み)より明確に低い水準です。この差の主因は「地域差」よりも「企業規模の構成の違い」と考えられます。

東京都内では、企業規模による差は小さい

「全国では企業規模が大きいほど退職金が増える」という傾向はよく知られていますが、東京都内の中小企業(10〜299人)というレンジに限って見ると、様子が変わります。東京都産業労働局のデータを企業規模別に見てみましょう(大学卒・定年・会社都合退職)。

図 2|東京都内は企業規模(10〜299人)による差が小さい
RETIREMENT ALLOWANCE BY FIRM SIZE (TOKYO SME) / 万円
全国計
(参考・30人以上)
1,896 万
東京
10〜49人
1,088.4 万
東京
50〜99人
1,096.7 万
東京
100〜299人
1,051.3 万
東京都内10〜49人・50〜99人・100〜299人の差はわずか45.4万円(最大でも4.3%)。全国計(規模計)1,896万円と比べれば、東京都内はどの規模でも6割前後の水準でほぼ横並びです。
SOURCE:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情 令和6年版」第8表-⑮〜⑰(企業規模別、大学卒、定年・会社都合退職)

この結果は、「東京都内で中小企業から中小企業へ転職しても、退職金の水準そのものは大きく変わりにくい」ことを示唆しています。企業規模による差が大きく開くのは、あくまで299人という枠を超えて大企業(1,000人以上)に移った場合と考えられます。

退職理由でどう変わるか、そして制度そのものの有無

退職金は「定年」だけでなく、「自己都合」「会社都合」でも金額が変わります。東京都のデータと全国計を比べると、その減り方にも違いがあります。

図 3|自己都合退職だと、どれだけ減るか
VOLUNTARY vs INVOLUNTARY RETIREMENT PAY RATIO / %
全国計
自己都合/定年
76.0%
東京中小企業
自己都合/会社都合
89.6%
全国計(大学卒・勤続20年以上かつ45歳以上)は自己都合1,441万円/定年1,896万円=76.0%。東京中小企業(大学卒・勤続33年時点)は自己都合796.8万円/会社都合889.7万円=89.6%。東京中小企業の方が、自己都合による減額幅は相対的に小さい結果です。
SOURCE:厚労省「就労条件総合調査 令和5年」第22表/東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情 令和6年版」第8表-①(勤続33年時点の値、東京都データには「定年×自己都合」の集計がないため会社都合と比較)

また、そもそも退職金制度自体がない企業も少なくありません。東京都の調査では、退職金制度が「ある」企業は64.2%、「ない」企業は34.4%でした。制度がある企業のうち76.1%は「退職一時金のみ」、17.3%が「退職一時金と退職年金の併用」です。全国計(就労条件総合調査R5・第16表)の制度あり割合74.9%と比べると、東京都の中小企業(10〜299人)はやや低めの水準です。

あなたの退職金の目安を診断する

ここまで見てきたように、「全国の代表値」と「自分が実際に働く場所の実態」の間には、母集団の違いによる大きなギャップが存在することがあります。退職金は、学歴・勤続年数・企業規模・退職事由という複数の要因が組み合わさって決まる指標です。

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「全国の数字」を鵜呑みにしないことが、次の一歩

「大学卒の退職金は1,896万円」という数字自体は、公的統計に基づく正しい数字です。しかし、それが「大企業も中小企業も込みの全国計」であるという前提を知らないまま受け取ると、実態とのズレに戸惑うことになります。東京都産業労働局の一次データが示すように、都内の中小企業(10〜299人)で働く人にとっての実感値は、1,149.5万円というもう一つの現実です。

ニュースで見かけた数字をそのまま自分に当てはめるのではなく、「その数字はどの母集団の平均なのか」を一度確かめる——それだけで、老後や転職の資金計画の精度は大きく変わります。今日知った746万円という差を、次のキャリアの判断材料にしてみてください。


データソース / 編集部

DataLabo 編集部について

DataLabo(データラボ)は、日本の公的統計を最速で反映することを編集方針とするデータジャーナリズム媒体です。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」「就労条件総合調査」、東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」など、行政・準行政の一次データを直接読み解き、診断ツール・解説記事として公開しています。

本記事は厚生労働省「就労条件総合調査 令和5年」結果の概況(第16表・第21表・第22表)と、東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情 令和6年版」(第7表・第8表)の原本資料から数値を直接確認して執筆しています。※ 全国計と東京都中小企業のデータは母集団の範囲(企業規模・調査年)が異なるため、単純な地域比較ではなく「母集団の違いを含んだ差」として捉えてください。

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