BLOG ARTICLE / 上場役員と一般従業員、見えている世界の違い

【2026年度版(令和7年度)】
上場役員と一般従業員、見えている世界の違い
— 年収偏差値で測れない『2つの集団』の構造

公開日: 2026-05-28 更新日: 2026-05-28 監修: DataLabo 編集部 カテゴリ: 役員報酬 / 年収偏差値

第1章:「年収偏差値80超」と「役員報酬」は、同じ物差しで語れるのでしょうか

年収偏差値という指標を見ていると、ふと疑問が湧いてきます。

「偏差値70は年収約898万円、偏差値80は約1,090万円。では、上場企業の常勤取締役の報酬2,700万円や、ニュースで聞く『役員報酬1億円超』は、偏差値ではいくつになるのでしょうか」

この問いに、当サイトの偏差値ツールは正面から答えられません。なぜなら、年収偏差値の物差しそのものに、役員報酬は含まれていないからです。

上場企業の役員と一般従業員は、統計上「同じ集団」として扱われていません。偏差値で比較できるのは同じ集団内に限られるため、両者の格差は別の枠組みで見る必要があります。

この記事では、上場企業の役員と一般従業員という「2つの世界」が、なぜ同じ偏差値で測れないのか、そして両者の実態がどう違うのかを、令和7年データと EDINET 開示情報で読み解きます。

出典: 厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」結果の概況(2026年3月24日公表)
出典: 国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査」(2024年9月公表)
出典: EDINET 有価証券報告書 上場 2,559 社(2024〜2025 年提出分集計)

第2章:賃金構造基本統計調査が役員を除外している事実

年収偏差値の計算基準となる厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(賃構調)は、役員を調査対象から除外しています。

賃構調が対象とするのは「常用労働者のうち一般労働者」で、定義は「同じ事業所の正社員と同等の所定労働時間で勤務する者」です。役員(取締役、執行役、監査役等)は会社と雇用契約ではなく委任契約で結ばれているため、労働者ではなく、賃金統計の対象外となります。

つまり、当サイトの偏差値ツールが算出する「年収516万円=偏差値50」は、役員報酬を完全に除いた一般労働者の分布の中での位置です。

FACT-CARD
年収偏差値の母集団に含まれない人々
役員(取締役・執行役)/ 自営業者 / 短時間労働者(パート・アルバイト)/ 家族従業者
→ 偏差値の物差しは「フルタイムの一般労働者」専用の物差し

第3章:上場企業の役員報酬は、どれくらいか

EDINET(金融庁が運営する電子開示システム)に提出される有価証券報告書には、各上場企業の役員報酬が「役員区分ごとの報酬総額と人数」として記載されています。当サイトのデータラボが上場 2,559 社の有価証券報告書を実際に集計したところ、役員区分によって報酬水準が大きく異なることがわかりました。

役員カテゴリ別の報酬実態(EDINET 全社集計)
EXECUTIVE COMPENSATION BY CATEGORY — EDINET 31,355 officers
カテゴリ 役員数(構成比) 1人当たり中央値 平均
取締役(社外除く)=常勤取締役 8,353(27%) 2,667万 3,698万
監査役(社外除く) 3,679(12%) 1,200万 1,387万
社外役員 18,272(58%) 650万 1,355万
執行役(指名委員会型) 648(2%) 4,565万 7,974万
その他(兼任等) 403(1%) 1,455万 3,528万
合計 31,355
結論: 上場役員の 58% は社外役員(非常勤・中央値 650 万円)で、報酬水準を引き下げています。「経営を担う役員」を見るなら、常勤取締役(中央値 2,667 万円)が実態に近い数字です。本記事ではこの常勤取締役を「上場役員」の基準とします。
出典: データラボ EDINET 有価証券報告書 2,559 社・役員 31,355 人の集計(2024〜2025 年提出分)

そこで、本記事では 常勤取締役(社外取締役を除く取締役)を「上場役員」の基準とします。EDINET 1,545 社・8,353 人の常勤取締役の報酬分布は以下の通りです。

上場企業 常勤取締役の報酬分布
LISTED INSIDE-DIRECTOR COMPENSATION DISTRIBUTION — EDINET 8,353 directors
下位 25%(第1四分位) 1,700万円
中央値 2,700万円
平均 3,700万円
上位 25%(第3四分位) 4,200万円
上位 5% 9,300万円
結論: 上場企業の常勤取締役の報酬中央値は 2,700 万円。一般労働者の平均年収 516 万円の 約 5.2 倍 に相当します。上位 5% は 9,300 万円でほぼ 1 億円に達します。これは「比較できる物差し」ではなく「異なる集団の典型値」の単純比較です。
出典: データラボ EDINET 有価証券報告書・常勤取締役(社外除く)1,545 社・8,353 人の集計(2024〜2025 年提出分)

上場企業の常勤取締役の報酬は、中央値 2,700 万円、平均 3,700 万円 という水準です。一般労働者の偏差値 80(年収約 1,090 万円、上位 0.13%)よりも、常勤取締役の中央値(2,700 万円)の方が高い位置にあります。

第4章:1億円超役員の希少性 — 個別開示制度が示す世界

金融庁の開示制度では、1 事業年度に役員報酬 1 億円以上を受け取った役員は、有価証券報告書で個人名と金額を開示する義務があります。この制度により、日本における超高額報酬役員の人数が公開情報として把握できます。

東洋経済新報社が毎年集計する「役員四季報」によると、2025 年時点で 1 億円超の報酬を受け取った役員は約 900〜1,100 人です。日本の上場企業(約 4,000 社)の取締役総数は約 3 万人と推計されるため、1 億円超役員は 役員全体の約 3〜4% にすぎません。

役員報酬の希少性ピラミッド
RARITY PYRAMID OF EXECUTIVE COMPENSATION — 2025
1 億円超役員 約 1,000 人
上場企業 役員(合計) 約 3 万人
一般労働者(全体) 約 3,500 万人
結論: 1 億円超役員(約 1,000 人)は、日本の労働人口(約 3,500 万人)の 約 35,000 分の 1。上場役員全体(約 3 万人)でも 約 1,200 分の 1。役員報酬の世界は、人数で見ても極めて希少です。
出典: 東洋経済新報社「役員四季報」2025 年版、EDINET 開示情報、賃構調 R7 をもとにデータラボ推計

「役員報酬 1 億円超」というニュースが目を引くのは、それが 約 35,000 人に 1 人 の希少性だからです。一方、偏差値 80(年収 1,090 万円)は 約 769 人に 1 人。同じ「上位」でも、桁が 2 つ違います。

第5章:上場役員と中小役員 — 同じ「役員」でも違う世界

ここまで上場企業の役員を見てきましたが、日本の役員はそれだけではありません。中小企業の役員も含めると、また違う実態が見えてきます。

3 つの集団の年収比較(中央値・平均)
3 GROUPS COMPARISON — LISTED EXECUTIVES vs SMB EXECUTIVES vs GENERAL WORKERS
一般労働者(全体) 516 万円
上場企業 従業員(中央値) 658 万円
中小企業 役員(資本金小) 661 万円
上場企業 従業員(加重平均) 771 万円
中小企業 役員(資本金大) 2,093 万円
上場 常勤取締役(中央値) 2,700 万円
上場 常勤取締役(平均) 3,700 万円
結論: 中小企業の社長(資本金小)の 661 万円 は、上場企業従業員の加重平均 771 万円 を下回ります。「社長なのに大企業の社員より低い」というパラドックスが日本では実在します。一方、上場企業の常勤取締役は中央値 2,700 万円と、一段高い世界です。
出典: 賃構調 R7、国税庁 R5 民間給与実態統計、EDINET 有価証券報告書 役員報酬(常勤取締役 1,545社・8,353人)集計

中小企業の役員は、必ずしも一般労働者より報酬が高いわけではありません。資本金 2,000 万円未満の小規模企業の役員報酬は 661 万円、これは上場企業従業員の加重平均 771 万円 を下回ります。

同じ「役員」というラベルでも、上場と中小では報酬構造がまったく違うのです。詳しくは 中小企業の社長・役員の年収偏差値 で別途解説しています。

第6章:従業員の最高水準と役員世界の交差点

ここで、従業員側の最高水準と役員側の入口がどこで交差するかを見てみます。

区分 年収・報酬 母集団内の位置
一般労働者 偏差値 60707 万円100 人中 16 位
一般労働者 偏差値 70898 万円100 人中 2 位
一般労働者 偏差値 801,090 万円約 769 人に 1 人
常勤取締役 下位 25%1,700 万円常勤取締役の中で下位
常勤取締役 中央値2,700 万円常勤取締役の中で典型
常勤取締役 平均3,700 万円常勤取締役の中で典型
常勤取締役 上位 5%9,300 万円ほぼ 1 億円に到達
1 億円超役員1 億円〜数十億円約 35,000 人に 1 人

偏差値 80(1,090 万円)の少し上から、常勤取締役の世界が始まります。一般労働者として偏差値 80 を超えるのは「約 769 人に 1 人」の希少性ですが、それでも常勤取締役の下位 25%(1,700 万円)にも届かない水準です。

これは「役員のほうが偉い」という話ではなく、異なる集団の典型値が異なる位置にあるという構造的な事実です。

収入×人数 マッピング — 横軸も縦軸も対数(ログログ)
LOG-LOG PLOT — INCOME vs CUMULATIVE POPULATION ABOVE
📖 このグラフの読み方
横軸は年収・報酬、縦軸は「その額以上を受け取る人の数」横も縦も対数(目盛りが等間隔で 10 倍ずつ増える)です。右へ行くほど年収が高く、上の点ほど人数が多くなります。所得格差は、こうした両対数グラフで右肩下がりの直線として現れます(経済学でいう「べき乗則」「パレートの法則」)。線が急なほど、少し年収が上がるだけで該当者が一気に減ることを意味します。青線(従業員)とオレンジ線(役員)が別の高さで並走している点が、本記事の核心です。
100万円から2億円までを横軸(対数)、その所得以上の人数を縦軸(対数)にとった、収入と希少性の関係図 一般従業員の世界 常勤取締役 中心域 1億円超 1億人 1,000万 100万 10万 1万 1,000 100 10 1人 ↑ その所得以上の人数(対数) 100万 1,000万 1億 2億 → 年収・報酬額(対数、10倍ごとに同間隔) 300万 偏差39 516万 偏差50 707万(偏差60) 898万(偏差70) 1,090万 / 上位約4.6% 偏差値80(実分布で約270万人) 一般従業員の上位裾(実分布の太い裾) 偏差値80超(1,090万超)も数%が実在。 正規分布近似はこの裾を過小評価する。 常勤取締役(社外除く) 下位25% 1,700万→約1.6万人 中央値 2,700万→約1万人 平均 3,700万→約7千人 上位25% 4,200万→約5千人 上位5% 9,300万→約1千人 1億円超 / 約1,000人 (東洋経済 役員四季報) これより上は 有報の個別開示領域
結論: 偏差値80(1,090万)を超える一般従業員も数%は実在します(青の破線)。ただし実分布はパレート的な太い裾を持ち、偏差値(正規分布近似)はこの上位層を過小評価します。さらに常勤取締役カーブ(オレンジ)が別の高さから始まり2つの集団が重なり合うため、同じ偏差値では測れません。最上位は1億円超(東洋経済で約1,000人)の個別開示領域です。
出典: 賃構調 R7、国税庁「民間給与実態統計調査」R5(上位裾の実データ)、EDINET 2,559 社集計、東洋経済「役員四季報」2025 をもとにデータラボ作成。両軸とも対数スケール。縦軸は「その所得以上を受け取る人の累積人数」。

第7章:偏差値が測れない『2 つの集団』の構造的理由

なぜ役員と従業員は同じ偏差値で測れないのか。理由は 3 つあります。

理由 1: 契約形態が異なる
従業員は雇用契約(労働基準法の対象)、役員は委任契約(会社法の対象)。報酬の決まり方が根本的に違います。

理由 2: 報酬の構成要素が異なる
従業員は月給+賞与が中心ですが、役員は基本報酬・業績連動報酬・株式報酬(ストックオプション等)が組み合わさります。同じ「年収」でも内訳が異質です。

理由 3: 分布の形状が異なる
従業員の年収分布は対数正規分布に近く、CV(変動係数)= 0.37 程度の比較的滑らかな分布です。一方、役員報酬は ロングテール(パレート分布的) で、上位数%が極端に高い金額を占めます。同じ正規分布近似では精度が出ません。

分布形状の違い — 従業員 vs 役員
DISTRIBUTION SHAPE — EMPLOYEES (LOG-NORMAL) vs EXECUTIVES (POWER LAW)
指標 一般労働者 上場 常勤取締役
分布の形 対数正規(左裾あり) パレート裾型(右裾長)
中央値 449 万円 2,700 万円
平均値 516 万円 3,700 万円
平均/中央値 比 1.15 1.38
上位 5% の典型 約 900 万円 約 9,300 万円
偏差値での表現 標準的に可能 近似が困難
結論: 常勤取締役の報酬は平均が中央値の 1.38 倍と、従業員(1.15 倍)よりも大きく歪んでいます。上位の少数が平均を引き上げる構造のため、偏差値(正規分布近似)では適切な物差しになりません。
出典: 賃構調 R7、EDINET 集計をもとにデータラボ作成

第8章:あなたはどちらの世界にいるのか — 診断ツールで自分の位置を知る

ここまで読んで、自分が「2 つの世界」のどちらにいるか、改めて確認したくなった方も多いと思います。

当サイトでは、立場別に 2 つの診断ツールをご用意しています。

FOR EMPLOYEES
一般従業員の方

賃金構造基本統計調査 R7 をベースに、性別・年齢・学歴・業種・企業規模・都道府県の 6 属性から、同じ集団内での偏差値を診断します。

年収偏差値チェッカー →
FOR LISTED COMPANY
上場企業の従業員・興味のある方

EDINET 上場 2,559 社のデータをベースに、業種別・規模別の上場企業従業員年収を診断します。役員報酬の参考データも閲覧可能です。

上場企業版 →

第9章:よくある質問(FAQ)

Q1. 役員報酬は年収偏差値に含まれないのですか?
含まれません。年収偏差値の基準データである厚生労働省「賃金構造基本統計調査」は、役員を調査対象から除外しています。役員は雇用契約ではなく委任契約であるため、労働者統計の対象外となります。
Q2. 上場企業の役員報酬の中央値はいくらですか?
データラボが EDINET の有価証券報告書 2,559 社・役員 31,355 人を集計した結果、上場役員の 58% は社外役員(非常勤・中央値 650 万円)でした。経営を担う常勤取締役(社外を除く取締役、8,353 人)に絞ると、報酬の中央値は約 2,700 万円、平均は約 3,700 万円、上位 5% は約 9,300 万円という分布です。
Q3. 1 億円超役員は何人いますか?
東洋経済新報社「役員四季報」2025 年版によると、1 事業年度に 1 億円以上の報酬を受け取った役員は約 900〜1,100 人です。上場企業の役員総数(約 3 万人)の約 3〜4% に相当します。
Q4. なぜ役員報酬 1 億円超は個別開示されるのですか?
金融商品取引法に基づく開示制度により、1 億円以上の役員報酬を受け取った個人は、有価証券報告書で氏名と金額を開示する義務があります。投資家保護とコーポレートガバナンスの観点からの規制です。
Q5. 上場企業の役員と中小企業の役員ではどれくらい違いますか?
上場企業の常勤取締役の報酬中央値(約 2,700 万円)は、資本金 2,000 万円未満の中小企業役員(平均 661 万円)の 約 4.1 倍 です。同じ「役員」でも上場と中小では構造的に違う集団です。
Q6. 偏差値で役員報酬を測ろうとするとどうなりますか?
一般労働者の分布(平均 516 万円、CV=0.37)に当てはめると、常勤取締役の中央値 2,700 万円は偏差値約 164、平均 3,700 万円は偏差値約 217 と、いずれも偏差値 100 を大きく超える非現実的な値になります。役員報酬はパレート分布的であるため、別の指標で見るべきです。
Q7. 従業員から役員になると偏差値はどう変わりますか?
偏差値の物差しが変わります。従業員時代に偏差値 70(898 万円)だった方が役員に就任して報酬 2,700 万円になった場合、それは「同じ集団の中の高位置」ではなく、「別の集団に移動した」と捉えるのが正確です。
Q8. 自分が役員になれる可能性はどう判断すればよいでしょうか?
統計的には、日本の労働人口 5,836 万人のうち上場企業役員は約 3 万人で、約 1,900 人に 1 人 の希少性です。可能性は職種・業界・キャリアパスに大きく依存しますが、まずは現在の自分の年収偏差値で「一般労働者の中での位置」を把握することが、キャリア判断の出発点になります。

第10章:まとめ — 物差しを正しく持つことが第一歩

上場企業の役員と一般従業員は、同じ年収偏差値の物差しでは測れません。理由は契約形態・報酬構成・分布形状の 3 つにあります。

しかし、「測れない」ということは「比較できない」ということではありません。自分が今どちらの集団にいて、どの位置にいるのかを知ることが、次の判断の出発点になります。

物差しは 1 つではありません。自分に合った物差しを選んで、現状を正確に把握することが、納得のいくキャリア判断の第一歩です。