【2026年度版(令和7年度)】
上場役員と一般従業員、見えている世界の違い
— 年収偏差値で測れない『2つの集団』の構造
第1章:「年収偏差値80超」と「役員報酬」は、同じ物差しで語れるのでしょうか
年収偏差値という指標を見ていると、ふと疑問が湧いてきます。
「偏差値70は年収約898万円、偏差値80は約1,090万円。では、上場企業の常勤取締役の報酬2,700万円や、ニュースで聞く『役員報酬1億円超』は、偏差値ではいくつになるのでしょうか」
この問いに、当サイトの偏差値ツールは正面から答えられません。なぜなら、年収偏差値の物差しそのものに、役員報酬は含まれていないからです。
上場企業の役員と一般従業員は、統計上「同じ集団」として扱われていません。偏差値で比較できるのは同じ集団内に限られるため、両者の格差は別の枠組みで見る必要があります。
この記事では、上場企業の役員と一般従業員という「2つの世界」が、なぜ同じ偏差値で測れないのか、そして両者の実態がどう違うのかを、令和7年データと EDINET 開示情報で読み解きます。
出典: 厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」結果の概況(2026年3月24日公表)
出典: 国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査」(2024年9月公表)
出典: EDINET 有価証券報告書 上場 2,559 社(2024〜2025 年提出分集計)
第2章:賃金構造基本統計調査が役員を除外している事実
年収偏差値の計算基準となる厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(賃構調)は、役員を調査対象から除外しています。
賃構調が対象とするのは「常用労働者のうち一般労働者」で、定義は「同じ事業所の正社員と同等の所定労働時間で勤務する者」です。役員(取締役、執行役、監査役等)は会社と雇用契約ではなく委任契約で結ばれているため、労働者ではなく、賃金統計の対象外となります。
つまり、当サイトの偏差値ツールが算出する「年収516万円=偏差値50」は、役員報酬を完全に除いた一般労働者の分布の中での位置です。
役員(取締役・執行役)/ 自営業者 / 短時間労働者(パート・アルバイト)/ 家族従業者
→ 偏差値の物差しは「フルタイムの一般労働者」専用の物差し
第3章:上場企業の役員報酬は、どれくらいか
EDINET(金融庁が運営する電子開示システム)に提出される有価証券報告書には、各上場企業の役員報酬が「役員区分ごとの報酬総額と人数」として記載されています。当サイトのデータラボが上場 2,559 社の有価証券報告書を実際に集計したところ、役員区分によって報酬水準が大きく異なることがわかりました。
| カテゴリ | 役員数(構成比) | 1人当たり中央値 | 平均 |
|---|---|---|---|
| 取締役(社外除く)=常勤取締役 | 8,353(27%) | 2,667万 | 3,698万 |
| 監査役(社外除く) | 3,679(12%) | 1,200万 | 1,387万 |
| 社外役員 | 18,272(58%) | 650万 | 1,355万 |
| 執行役(指名委員会型) | 648(2%) | 4,565万 | 7,974万 |
| その他(兼任等) | 403(1%) | 1,455万 | 3,528万 |
| 合計 | 31,355 | — | — |
そこで、本記事では 常勤取締役(社外取締役を除く取締役)を「上場役員」の基準とします。EDINET 1,545 社・8,353 人の常勤取締役の報酬分布は以下の通りです。
上場企業の常勤取締役の報酬は、中央値 2,700 万円、平均 3,700 万円 という水準です。一般労働者の偏差値 80(年収約 1,090 万円、上位 0.13%)よりも、常勤取締役の中央値(2,700 万円)の方が高い位置にあります。
第4章:1億円超役員の希少性 — 個別開示制度が示す世界
金融庁の開示制度では、1 事業年度に役員報酬 1 億円以上を受け取った役員は、有価証券報告書で個人名と金額を開示する義務があります。この制度により、日本における超高額報酬役員の人数が公開情報として把握できます。
東洋経済新報社が毎年集計する「役員四季報」によると、2025 年時点で 1 億円超の報酬を受け取った役員は約 900〜1,100 人です。日本の上場企業(約 4,000 社)の取締役総数は約 3 万人と推計されるため、1 億円超役員は 役員全体の約 3〜4% にすぎません。
「役員報酬 1 億円超」というニュースが目を引くのは、それが 約 35,000 人に 1 人 の希少性だからです。一方、偏差値 80(年収 1,090 万円)は 約 769 人に 1 人。同じ「上位」でも、桁が 2 つ違います。
第5章:上場役員と中小役員 — 同じ「役員」でも違う世界
ここまで上場企業の役員を見てきましたが、日本の役員はそれだけではありません。中小企業の役員も含めると、また違う実態が見えてきます。
中小企業の役員は、必ずしも一般労働者より報酬が高いわけではありません。資本金 2,000 万円未満の小規模企業の役員報酬は 661 万円、これは上場企業従業員の加重平均 771 万円 を下回ります。
同じ「役員」というラベルでも、上場と中小では報酬構造がまったく違うのです。詳しくは 中小企業の社長・役員の年収偏差値 で別途解説しています。
第6章:従業員の最高水準と役員世界の交差点
ここで、従業員側の最高水準と役員側の入口がどこで交差するかを見てみます。
| 区分 | 年収・報酬 | 母集団内の位置 |
|---|---|---|
| 一般労働者 偏差値 60 | 707 万円 | 100 人中 16 位 |
| 一般労働者 偏差値 70 | 898 万円 | 100 人中 2 位 |
| 一般労働者 偏差値 80 | 1,090 万円 | 約 769 人に 1 人 |
| 常勤取締役 下位 25% | 1,700 万円 | 常勤取締役の中で下位 |
| 常勤取締役 中央値 | 2,700 万円 | 常勤取締役の中で典型 |
| 常勤取締役 平均 | 3,700 万円 | 常勤取締役の中で典型 |
| 常勤取締役 上位 5% | 9,300 万円 | ほぼ 1 億円に到達 |
| 1 億円超役員 | 1 億円〜数十億円 | 約 35,000 人に 1 人 |
偏差値 80(1,090 万円)の少し上から、常勤取締役の世界が始まります。一般労働者として偏差値 80 を超えるのは「約 769 人に 1 人」の希少性ですが、それでも常勤取締役の下位 25%(1,700 万円)にも届かない水準です。
これは「役員のほうが偉い」という話ではなく、異なる集団の典型値が異なる位置にあるという構造的な事実です。
横軸は年収・報酬、縦軸は「その額以上を受け取る人の数」。横も縦も対数(目盛りが等間隔で 10 倍ずつ増える)です。右へ行くほど年収が高く、上の点ほど人数が多くなります。所得格差は、こうした両対数グラフで右肩下がりの直線として現れます(経済学でいう「べき乗則」「パレートの法則」)。線が急なほど、少し年収が上がるだけで該当者が一気に減ることを意味します。青線(従業員)とオレンジ線(役員)が別の高さで並走している点が、本記事の核心です。
第7章:偏差値が測れない『2 つの集団』の構造的理由
なぜ役員と従業員は同じ偏差値で測れないのか。理由は 3 つあります。
理由 1: 契約形態が異なる
従業員は雇用契約(労働基準法の対象)、役員は委任契約(会社法の対象)。報酬の決まり方が根本的に違います。
理由 2: 報酬の構成要素が異なる
従業員は月給+賞与が中心ですが、役員は基本報酬・業績連動報酬・株式報酬(ストックオプション等)が組み合わさります。同じ「年収」でも内訳が異質です。
理由 3: 分布の形状が異なる
従業員の年収分布は対数正規分布に近く、CV(変動係数)= 0.37 程度の比較的滑らかな分布です。一方、役員報酬は ロングテール(パレート分布的) で、上位数%が極端に高い金額を占めます。同じ正規分布近似では精度が出ません。
| 指標 | 一般労働者 | 上場 常勤取締役 |
|---|---|---|
| 分布の形 | 対数正規(左裾あり) | パレート裾型(右裾長) |
| 中央値 | 449 万円 | 2,700 万円 |
| 平均値 | 516 万円 | 3,700 万円 |
| 平均/中央値 比 | 1.15 | 1.38 |
| 上位 5% の典型 | 約 900 万円 | 約 9,300 万円 |
| 偏差値での表現 | 標準的に可能 | 近似が困難 |
第8章:あなたはどちらの世界にいるのか — 診断ツールで自分の位置を知る
ここまで読んで、自分が「2 つの世界」のどちらにいるか、改めて確認したくなった方も多いと思います。
当サイトでは、立場別に 2 つの診断ツールをご用意しています。
賃金構造基本統計調査 R7 をベースに、性別・年齢・学歴・業種・企業規模・都道府県の 6 属性から、同じ集団内での偏差値を診断します。
年収偏差値チェッカー →EDINET 上場 2,559 社のデータをベースに、業種別・規模別の上場企業従業員年収を診断します。役員報酬の参考データも閲覧可能です。
上場企業版 →第9章:よくある質問(FAQ)
第10章:まとめ — 物差しを正しく持つことが第一歩
上場企業の役員と一般従業員は、同じ年収偏差値の物差しでは測れません。理由は契約形態・報酬構成・分布形状の 3 つにあります。
しかし、「測れない」ということは「比較できない」ということではありません。自分が今どちらの集団にいて、どの位置にいるのかを知ることが、次の判断の出発点になります。
- 一般従業員として、自分の偏差値を知りたい方 → 年収偏差値チェッカー
- 上場企業の従業員として、上場企業内での位置を知りたい方 → 上場企業版
- 年収偏差値の定義そのものを知りたい方 → 年収偏差値とは
物差しは 1 つではありません。自分に合った物差しを選んで、現状を正確に把握することが、納得のいくキャリア判断の第一歩です。